アルコール依存症は慢性疾患

アルコール依存症は、一種の慢性疾患です。この慢性という表現には、2つの意味があり、

  1. 治癒しない
  2. 再発と寛解を繰り返す

という特徴があります。

治癒しないため、『寛解(かんかい』という言葉を使います。完全に病気が治ることはないため、病状が安定、落ち着いている状態を意味します。アルコール依存症には、再発と寛解を繰り返すという特徴があります。

飲酒のコントロールは難しい

飲酒をやめたいと思ってもコントロールができない場合、その後長期に禁酒をしたとしても、コントロールした飲酒ができる可能性はとても低いといえます。そのため、アルコール依存症からの回復には継続した断酒が必要になってくるのです。

アルコール依存症は、慢性疾患の中でも特に糖尿病や高血圧症といった生活習慣病と共通した特徴があると理解するべきでしょう。

アルコール依存症の診断基準

アルコール依存症の診断準は

  1. 飲酒への強い欲望または強迫感
  2. コントロール喪失飲酒
  3. 禁酒あるいは減酒したときの離脱症状
  4. 耐性の形成
  5. 飲酒のために、他の楽しみや趣味を次第に無視するようになり、飲んでいる時間が多くなったり、酔いが醒めるのに時間を要するようになる。
  6. 明らかに有害な結果が起きているのに、飲酒する。

ICD-10の診断基準では、過去1年間に上記の項目のうち3項目以上が同時に1か月以上続いたか、または繰り返し出現した場合、アルコール依存症という診断名がつけられるようになります。

アルコール依存症の診断においては、アルコールの量はさほど重要ではないのです。

なぜアルコール依存症になってしまうのか患者の気持ちを理解する

なぜアルコール依存症になってしまうのか、これを考えた時に、自己治療で依存症になっているケースがとても多いように思います。アルコール依存症の方は心の調整がうまくできていないことが多く、本来は、自分自身の心で調節すべきつらい感情を、心の外にある物(アルコール)で調整しようとしてしまうのです。

その場合、自己治療として成功を続けてきたアルコールは、その方自身にとって本当に大事な物なのです。まさに生きるためにアルコールを飲んでいたという理解ができるでしょう。例えるなら、その方にとってアルコールは、溺れかかって必死にもがいていた時に、手に取った浮き輪のような存在なのです。その浮き輪(アルコール)を無理やり奪おうとすると、その方は近くにある別のものに手をかけるだけです。それは薬物だったり、ギャンブルであったり、自傷行為であったり、過食であったり、いろいろな浮き輪が考えられるでしょう。

そのため、アルコール依存症の治療のスタートは、自分の病気は援助が必要なものであり、一人ではやめられないと感じることからになります。アルコール依存症は慢性疾患であるため、入院治療は一つのプロセスでしかありません。アルコール依存症の治療に入院治療が必須というものではないのです。入院治療でできることには限界があり、入院はあくまでも、しらふで生きるためのきっかけに過ぎません。

アルコール依存症入院治療の目的

アルコール依存症の入院の目的は

  1. 離脱期を乗り越えること
  2. お酒をやめるための情報提供

大まかにはこの2点になります。

原則的に本人の意思で入院していただき、入院してから1週間~数週間は、お酒を体から抜く解毒の期間を過ごしてもらいます。この間に身体面の検査を行い、離脱症状の管理、アルコール関連身体疾患の治療、認知機能の評価、精神症状の治療を行います。この期間は記憶があいまいなことが多いため、安静に過ごしていただくことが重要になってきます。

お酒が体から抜けて、身体面の管理が安定したのち、断酒教育プログラムを受るという流れにつながります。この期間にお酒をやめていく方法を学び、自助グループ等を知ってもらいます。いわゆる情報提供を行い、それについて考えてもらう期間になります。プログラムを強制するというよりは、あくまで情報提供を行い、それについてご自身で考えていただき、断酒をしてもらう、というスタンスです。ご本人ご自身に、お酒をやめたい、というお気持ちがない場合には断酒の継続は難しいでしょう。

断酒の動機づけ

ご本人ご自身のお酒をやめたい、というお気持ち、いわゆる治療の動機づけが、アルコール依存症の治療には重要です。この動機づけに関してはご本人ご自身に気づいてもらうしかありません。アルコールが原因で失敗をすることが動機づけになるタイミングです。例えば飲酒運転で捕まった、仕事を休んだ、大事な約束を破った、暴力事件を起こして警察に捕まった、等々、これらの失敗エピソードが動機づけのタイミングになりやすいです。

イネイブラー(共依存者)にならない

本人を治療につなげるために、家族がイネイブラー(共依存者)にならないということが非常に重要になってきます。共依存者(イネイブラー)とは現状を維持する人という意味で、良かれと思って、本人の尻拭いをしてしまうことがこれにあたります。良かれと思って、尻拭いをすることで、アルコール依存症者は問題に気付くのが遅れてしまうのです。例えば、本人がお酒を飲んで仕事に行けない場合、職場に休みの電話をしてしまったり、本人がお酒を飲んで問題を起こし、警察のお世話になった時に迎えに行ったり、といったことが尻拭いにあたります。尻拭いをすることで、お酒を飲み続けることができる環境はそのままになり、本人はそれを問題だとは考えないため、引き続きお酒を飲み続けてしまうのです。

医療として大事なのは、アルコール依存症者と家族との今までの関わりを壊すことに注目します。バランスを崩すことで、アルコールを飲めない状況に本人を追い込むことが重要なのです。

本人を治療につなげる

本人に対し、頭ごなしに治療を勧めても一筋縄ではいかないでしょう。本人を治療につなげるタイミングとして、前述した本人が失敗したタイミングが、治療に繋ぎやすいタイミングと言えるでしょう。具体的には本人が後悔したとき、動揺しているときがいいでしょう。

例として

  • 飲酒運転で逮捕された
  • 仕事を休んだ
  • 大切な約束が守れなかった
  • 産業医に、アルコールについて指摘された
  • お酒で失敗をした
  • 会社の同僚に飲み会に行くのを断られた
  • 孫に酒臭いといわれた
  • アルコールをやめるように内科医に言われた
  • 暴力事件を起こして警察に保護された
  • 失禁をした

本人に声をかけるポイント

私は~と伝えるのがコツです。自分はこう思っている、という伝え方をすると、伝わり方がマイルドになり、反発の感情が生じづらくなります。例えば相手に体が心配なことを伝えるのであれば、「私はあなたの体のことが心配なの」という伝え方をしてみましょう。「お酒をやめないと死んじゃうよ」という伝え方と比べでどうでしょうか。

本人への声のかけ方についてはいくつかポイントがあるため、別の項で紹介させていただければと思います。