アルコール依存症についてまとめてみました

 最近仕事でアルコール関連の問題を扱うことが多いため、アルコール依存症についてまとめてみました。

アルコール依存症は誤解の多い病気

 アルコール依存症はまだまだ誤解の多い病気です。

アルコール依存症にありがちな誤解

  • アルコール依存症は性格の問題ではありません
  • アルコール依存症は意志が強ければやめられるものではありません
  • お酒の飲み方がだらしないから、アルコール依存症になるわけではありません
  • やめる気が無いから飲み続けているわけではありません。
  • 仕事に行けているから依存症ではないわけではありません。
  • アルコール依存症の人は好きで酒を飲んでいるので、身体を壊して飲んでも自由だ、という考え方は誤りです。

アルコール依存症という病名は良く耳にする世の中になりましたが、誤解や誤ったイメージが先行してしまい、アルコール依存症の病気の本質はあまり知られていない現状があります。

日本におけるアルコール依存症の現状

 平成25年の厚生労働省の研究班によると、アルコール依存症患者の数は推計で109万人とされています。内訳としては男性95万人、女性が14万人となっており、女性については10年前の2倍近くに増加しています。また、多量飲酒者(目安として日本酒3合・ビール中ビン3本以上飲む方)が979万となっています。

 女性と高齢のアルコール依存症者の増加が顕著となっています。

アルコールという物質について

 アルコールという物質は中枢神経抑制物質であり依存性薬物です。

 中枢神経抑制物質とは、脳の働きや運動機能が抑制される物質です。中枢神経抑制物質が体内に取り込まれると、理性、本能、生命を保つための脳の機能が順番に低下していきます。

 依存性薬物とは、文字通り体に依存する物質です。アルコールの依存性はかなり強く、誰でも依存症となりうる可能性があります

精神依存身体依存耐性
アルコール++++++
モルヒネ+++++++++
コカイン+++
マリファナ++
アンフェタミン++++
LSD+++
依存性薬物の身体依存・精神依存・耐性

依存症とは何か

 そもそも依存症とはなんでしょうか。一般的には嗜癖(しへき)とも言われています。

精神に作用する化学物質の摂取や、ある種の快感や高揚感を伴う特定の行為を繰り返し行った結果、それらの刺激を求める抑えがたい欲求が生じ、その刺激を追い求める行動が優位となり、その刺激がないと不快な精神的・身体的症状を生じる精神的・身体的・行動的状態のこと。

WHOの専門部会が提唱した概念

 この状態のことを依存が形成されたといいます。

 依存症とは○○をやめたいと思っているにもかかわらず、つい使ってしまい、自分のこころや体の健康を損なったり、職業的・社会的な活動に障害を引き起こしてしまう病気です。アルコール依存症では、しらふの状態も含めて、自分ではもはやコントロールができない状態です。

依存症と中毒の違い

 中毒は毒に中る(あたる)状態のことを指し、有害物質が体内に入った後の反応・結果・症状のことを指します。急性アルコール中毒や肝機能障害などがそれにあたります。
 かつてアルコール依存症は『慢性アルコール中毒』といわれていたこともあり、それが「アル中」の語源になっています。

様々な依存症

 依存症には様々なものがあり、物質依存、プロセス依存、人間関係依存等があります。

  • 物質依存  アルコール 覚せい剤 大麻 ニコチン 等
  • プロセス依存  ギャンブル 買い物依存 ゲーム依存 等
  • 人間関係依存  恋愛依存 セックス依存 等

 物質依存と嗜癖行動とは無視できない近縁性があり、同一者にこれら両方の問題が認められることは珍しいことではありません。

アルコール依存症の診断基準

ICD-10によるアルコール依存症の診断基準としては、

  1. 飲酒したいという強烈な欲求・強迫感がある。(渇望)
  2. 節酒が不能な状態。(コントロール喪失飲酒)
  3. 離脱症状がある。(禁断症状)
  4. 耐性の増大。
  5. 飲酒や泥酔からの回復に1日の大部分の時間を消費してしまう。飲酒以外の娯楽を無視する。(飲酒中心の生活)
  6. 社会的・精神的・身体的問題が悪化しているにも関わらず飲酒する。(わかっちゃいるけどやめられない状態)

 以上の項目が過去1年間に3項目以上同時に1か月以上続いたか、または繰り返し出現した場合、アルコール依存症という診断となります。

 特に注意した方がいい症状として、連続飲酒と離脱症状が挙げられます。

 連続飲酒とは常に体に一定レベル以上のアルコールを維持するために、一定量の酒を数時間おきに飲み続ける状態です。連続飲酒は離脱症状が起きないように、その状態になっていることがままあります。

 離脱症状とはお酒が体から抜けていく際に起こる症状です。最終飲酒の6~10時間後から始まり、その後2.3日で治まります。これを早期離脱症状、小離脱といい、振戦、頻脈、血圧上昇、軽い発汗、不安焦燥、嘔気、一過性幻覚、けいれん発作、軽い見当識障害等が起こります。

 小離脱のうちの約20%が大離脱に移行します。大離脱では振戦、著しい発汗、自律神経亢進症状、精神運動興奮、幻覚、著しい見当識障害等が起こります。大離脱は、飲酒中止後2~3日目頃から起こり、3~4日持続します。

なぜ離脱症状が起こるのか

 慢性的にアルコールが体に入っていると、アルコールが入っているため脳の働きが抑えられた状態で、不健康ながらも体がバランスをとるようになってしまいます。
 その状態からアルコールが急に抜けると体のバランスが崩れてしまうようになります。体にお酒が入っていない状態でバランスがとれるようになるまでの移行期間に出現するのが離脱症状です。

依存症に至る経過

 依存症に至る経過は人それぞれ違いますが、遺伝・環境の要因が大きいと言われています。
 試しにやってみることで、自分の「辛い気持ち」が楽になることを体験してしまうことが依存症のスタートの段階と言えます。

 次に自己調節機能障害が生じてきます。「生きづらさ」を人に頼らず自分一人で何とかしようとして繰り返すなかで、特定の物質、嗜癖に走らないと対処できないような状況が増えてきます。

 最終的には脳の機能障害が生じてきます。コントロールを失い、やめられなくなる状態に至ります。

 アルコール依存症は身体、精神、社会(対人関係)を巻き込む病気です。また、いろいろなものを「失う」病気です。最終的には大切にしていた家族、仕事、趣味などよりも飲酒をはるかに優先させる状態に至ります。

アルコール関連疾患

 また、アルコールは全身の様々な臓器障害を引き起こします。60以上の病気や外傷が、アルコールによって引き起こされる危険性があります。アルコール依存症が慢性・進行性・致死性の疾患と言われる所以です。

 また、アルコールの大量飲酒はうつ病を引き起こす危険性が高く、うつ病は飲酒問題を引き起こすことがあります。多量の飲酒は抗うつ薬の効果を弱めてしまうので、悪循環に陥る危険性があります。こういった関係性から、断酒だけでもうつ状態が改善することがあります。

アルコール依存症と診断されてしまったら

 アルコール依存症と診断された場合、節酒は極めて困難であるということを認識しなければなりません。自分自身でお酒の量をコントロールできる脳の構造では既にないのです。飲み始めたらどこまでも飲んでしまう、ブレーキの壊れた脳に変化しているのです。

 飲酒を継続すれば重症化し、死にいたる可能性があるということを認識しなければいけません。アルコール依存症は死に至る疾病なのです。今は大丈夫でも飲み続けることで臓器に障害が生じ、やがて死に至ります。

 そういった死を避けるために、断酒を含めた治療を始める必要があるということを認識しなければいけません。断酒を継続すれば回復の可能性があります。

 アルコール依存症が進行すると、自身の身体の健康はもちろん、家族、仕事等、色々な大切なものを失ってしまいます。そのため、なるべく早い段階で治療につながることが望ましいです。アルコール依存症は『治癒』はかないませんが『回復』は可能な病気なのです。

アルコール依存症の回復

 アルコール依存症の回復の目標は最終的に「アルコールの必要ない生活が普通になる」が目標となります。アルコールにに支配された状態から日常生活・社会的に自立すること、アルコールにより失われた信頼をとりもどすことが目標になります。

 節酒はできないのか、と考える方もいらっしゃいますが、アルコール依存症になってしまった以上最終的には断酒が必要です。飲み続けて死ぬか、酒をやめるかのどちらかでその中間はありません。

意志だけでは酒をやめつづけることは困難

 アルコール依存症は意志だけで酒をやめ続けることは困難です。そのため、アルコール依存症の治療には専門外来、抗酒剤、自助グループといった三本柱が重要になってきます。

アルコール専門外来

 まず1つ目の治療の柱として、定期的にアルコール専門外来に通院することが重要です。

 専門外来に通院することで、断酒の継続についてチェックができます。また、再飲酒してしまった際に、対応が早めにできるという点もあります。
 定期的に通うことによって自分の問題を振り返ることができます。自分のアルコール問題について再認識する機会になります。
 また、薬物療法を継続するため、定期的に受診し、薬を処方してもらわなければいけません。

抗酒剤

 2つ目の治療の柱として、抗酒剤を服用するということも重要です。抗酒剤としてノックビンRという粉の薬と、シアナマイドR という液体の薬が使われます。 

 これらの抗酒剤を服用した状態で飲酒すると、アセトアルデヒドが急激に増加し、強烈な二日酔い症状(顔面紅潮、動悸、頭痛、嘔吐等)を引き起こします。
 つまり人工的に下戸にする薬となります。

 抗酒剤は毎日、機会的に服用することで、飲酒と距離をとることが目的に処方されます。飲酒欲求そのものへの影響はないとされています。

 レグテクトR という断酒補助剤が近年発売になりました。この薬は強い飲酒欲求をおさえるための薬で、アルコール依存症患者における断酒維持の補助を目的とした薬になります。
 使用上の注意として、心理社会的治療と併用すること、断酒の意志がある患者にのみ使用することと定められています。

自助グループ

 3本目の柱が自助グループです。自助グループとはアルコールに悩む人なら誰でも参加できる 、酒害者自身によって運営される組織です。

 日本には、断酒会と、AA(Alcoholics Anonymous 無名のアルコール依存症者たち)という2つの主な団体が活動しています。

 自助グループが回復に必要な理由としては、

  • 断酒の必要性について医療者や家族が指摘するより、同じ病気を持つ仲間の発現の方が受け入れられやすいこと。
  • 依存症者の主体性が引き出されやすいこと。
  • 素面での他者とのコミュニケーションがとれること。
  • 個人的に接するより危険な行動が少ないこと。
  • 断酒が集団の中では評価されること。
  • 集団の中では一般社会の偏見から解放されること。
  • 他のメンバーと接することで自己を客観視しやすいこと。

等の理由があります。

依存症の回復を目指すにあたって

 最後に、依存症の回復を目指すにあたって。

 時間をかけないとよい回復はありません。また、お酒をやめて新しい生き方に入るとき、その前に時にプライド、社会的地位、仕事等を捨てることが必要です。
 また、外からの言葉ではなく、本人の自分を大切にしようとする気持ちが大事になってきます。自分ひとりの判断ではなく仲間をもって、相談相手を持って、迷わないように・疲れないように回復を歩むことが大切です。
 社会、家族等に迷惑をかけたことばかり考えて、自分を卑下しすぎないようにしましょう。

 短期間お酒を飲まなければよいということではありません。アルコール依存症者にとって、アルコールは溺れかけた時につかんだ“浮き輪”のような存在です。これをとりあげることが重要なのではなく、浮輪が無くても泳いで行ける力をつけることが重要であり、それがアルコール治療にとっての『回復』なのです。